平家琵琶の豆知識

平家琵琶の相伝者の立場から、やや専門的な解説をするブログです

「腰越」解剖1

平家琵琶では、腰越状の部分は「読物」という特殊な節まわしで語ります。「読物」は「伝授物」の一つで、「平物(ひらもの)」161句の口伝を終えていないと教習が許されません。また音の構造理論も複雑ですので、技術面では大小秘事より難易度が高いといえます。
読物は全部で13句あります。祝詞や手紙文が中心となっています。

巻之二 康頼祝詞
巻之四 山門牒状
巻之四 南都牒状
巻之四 南都返牒
巻之五 文覚勧進帳
巻之五 伊豆院宣
巻之七 木曽願書
巻之七 木曽山門牒状
巻之七 山門返牒
巻之七 平家連署願書
巻之十 八嶋院宣
巻之十 請文
巻之十一 腰越

平家物語の原文が載っているサイトは多くあると思いますが、ちょうど大河ドラマ腰越状が出てきましたので、当該部分の詞章と、ごく簡単なあらすじを載せてみます。

散シ(低音域で独特の節があります。祝詞に似ています。) 
源の義経、恐れながら言上げ候。意趣は御代官の其一つに撰ばれ,勅宣の御使として朝敵を平らげ、会稽の恥辱をすすぐ。勲賞行はるべき所に、思ひの外の虎口の讒言によって、莫大の勲功を黙せらる。義経、犯し無して科を蒙る、功有て誤無しと云へども、御勘気を蒙る間、むなしく紅涙に沈む。

源の義経、恐れながら申し上げます。この書状の意趣を申します。私は御代官の一人に撰ばれ,勅宣により朝敵を平らげましたのに、讒言によって勲功もなく、犯しも無く科を蒙り、御勘気を蒙り、血の涙を流しています。

下音(低い音域でテンポ良く語ります) 
讒者の実否を正されず、鎌倉中へだに入れられざる間、素意を述ぶるに能はず、徒に数日を送る。この時に当って、永く恩顔を拝し奉らず、骨肉同胞の義、既に絶え、宿運極めて、むなしきに似たるか、はたまた前世の業因を感ずるか。
上音(やや高い音域でテンポ良く語ります) 
悲しき哉 此条 故亡父尊霊再誕し給はずは、誰の人か愚意の悲嘆を申し披かん、何れの人か哀憐を垂れられんや。事新しき申状 述懐に似たりと雖も 義経 彼の身軆髪膚を父母に受け、幾許の時節を経ずして 故頭の殿 御他界の間、孤児と成て 母の懐の内に抱かれて 大和国宇多郡へ趣きしより以来 一日片時安堵の思ひに住せず。

讒者の実否を正されず、鎌倉にも入れないので、思いを述べることができず、いたずらに数日を送り、対面もできません。
亡父の尊霊が再誕しない限り、私の悲嘆を哀れむ人は無いでしょう。述懐になりますが、身軆髪膚を父母に受け、時節を経ずに父が他界し、母と大和国宇多郡へ赴いて以来、片時も安堵することはありませんでした。