平家琵琶の豆知識

平家琵琶の相伝者の立場から、やや専門的な解説をするブログです

琵琶を描いた絵など

オークションサイトを見ておりますと、琵琶をモチーフにしたグッズが出品されていることがあります。でも、致し方ないことなのでしょうけれど、細部に至るまで精巧に琵琶を模してあるものは少ないです。
これは、そいういったグッズに限ったことではなくて、平安時代の絵巻物に描かれた楽琵琶でも、江戸時代の屏風絵に描かれた平家琵琶でも、同じことが言えるのです。
転手(てんじゅ:糸巻き)の状態、転手と鶴首の角度、絃の本数、柱(じ:フレット)の数、半月(はんげつ:共鳴孔)の形や傾き、撥面に描かれる絵の向き、覆手(ふくじゅ:撥面近くにある糸かけ)の形などなど、歴代の絵師たちも相当難儀したようです。おそらく、琵琶そのものの流通量が極めて少なかったのでしょう。
突然ですが、身近な物(家にある電子レンジとか時計とか)を、実物を見ないで描いてみてください。そのあと、見比べてみてください。誰か別な人に見せたとき、それが何であるかは伝わるでしょう。けれども実物そっくりには描けないですよね。
ところが不思議なことに、琵琶くらい珍しい物になると、その絵を見た人は、それが写実的なものであると錯覚してしまうのです。
たとえば、柱(じ)が6つ描かれたように見える琵琶の絵があります。たぶん、承絃という部分が柱に見えるか、絵師が勢い余って6つ描いたかのどちらかなのでしょう。何せ、とても小さな絵なのです。断言はできませんが、そう考えたほうが辻褄が合います。しかしそれを見て「当時は六柱の琵琶があった」と主張する人もいるのです。
ずいぶん前に聞いた話ですが、18世紀のどこかの女王様は、中年になってから肖像画を描かせることになり、顔は○○歳のときの顔で、ドレスは△△歳のときの服が気に入っていたからそれで描いてと注文したそうです。その逸話を知らない人は、肖像画のドレスをその年の流行だと思い、女王様はいつまでも若々しかったと錯覚してしまいます。
難しいですね・・・。