平家琵琶の豆知識

平家琵琶の相伝者の立場から、やや専門的な解説をするブログです

平家物語「紅葉」の名言

平家物語巻之六に、高倉天皇の仁徳を称える「紅葉」という句があります。
この中で、まだ若かった高倉天皇は、女主人の装束を奪われた女童(めのわらわ)の存在を知り、仁徳が至らないから犯罪があるのだと嘆かれ、后(徳子)の装束を女童に賜わせて当直の武士に護衛させています。
高倉天皇が目標としている仁徳のある帝とは、伝説の聖主である尭帝のことです。

尭(ぎょう)の世の民は尭の心の直(すなお)成るを以って心とする故に皆直也。今の世の民は朕が心を以って心とする故にかたましき者朝(ちょう:治世の意味)に在って罪を犯す。是我が恥に非ずやとぞ詔せける。
現代語訳:「尭の国の人々は尭の心がけを見習うので、皆が正直だったという。今の日本の人々は私のの心がけを見習うから犯罪がはびこるのだ。これは私の恥である」と仰った。

平曲ではこの部分を「折声(おりこえ)」という曲節(旋律形式)で語ります。漢詩や故事を読んだり登場人物の心情を表したりするときに用いる曲節です。高倉天皇のお気持ちや、平家物語の作者たちの気持ちが伝わってきます。
上司の行動を部下が真似るというのは、世の常と言うものです。政治家、会社の役員や管理職などの上層部、学校の先生、サークルの主宰者……。いろいろな責任ある立場の方に知っていただきたい詞(ことば)です。